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マーケティング戦略において「カスタマージャーニー」というキーワードを耳にする機会が増えている。一般的に、顧客の心理や行動を時系列で示した図として知られているが、ユーザーシナリオと混同している例もあるとUXディレクターの森田 雄氏は指摘する。

第10回セミボラの第二部は、「どう作る? どう使う? カスタマージャーニー」と題し、本来あるべきカスタマージャーニーとは何か、作成や活用のポイントが議論された。

カスタマージャーニーのベースになるUXデザイン

モデレータ
株式会社ベストインクラスプロデューサーズ
代表取締役社長
菅 恭一 氏

株式会社ツルカメ
代表取締役社長
UXディレクター
森田 雄 氏

まず、モデレータの菅氏は、Googleトレンドの「カスタマージャーニー」の人気動向から、2013年ごろから検索数が急上昇していることを示す。しかし、注目されてはいるが、使いこなされていないのが現状だと指摘する。

続けて森田氏は、カスタマージャーニーのベースとなるUXデザインについて触れ、「UX(User Experience)」をユーザー体験と訳すことは多いが、本来はユーザーがサービスを使うことによって感情や印象がどう変化するのか、使い勝手をどう感じるかという意味であり、体験という言葉は抽象的になりやすいと語る。

ユーザーは必ずしも利用者である必要はなく、UXの良し悪しは、それぞれが主観で判断するものだ。そして、あらゆる人間が「良い体験だった」と判断するように、良いUXを量産的に作り出す計画が「UXデザイン」だと説明する。

UXデザインは、基本的に「ペルソナ」「カスタマージャーニーマップ」「ユーザーシナリオ」の3つを判断根拠の拠り所にし、これらを徹底すれば、UXデザイン案件として成立するという。

UXデザインを支える3つの要素について、森田氏は次のように定義した。

  1. ペルソナ

    ユーザーのモデルを示すもの。「どんなユーザーですか?」という具体的質問に対し、関係者が異なる人物像をイメージすることを防ぐ。

  2. カスタマージャーニーマップ

    ペルソナのジャーニーを示すもの。「どんなときにサービスを利用しますか?」という具体的な質問に対し、関係者が異なるタイミングをイメージすることを防ぐ。

  3. ユーザーシナリオ

    理想的なペルソナの理想的なジャーニー。カスタマージャーニーマップとユーザーシナリオとの間に生まれるギャップも含め、関係者間で合意することで改善が見えてくる。

カスタマージャーニーとユーザーシナリオの違い

次に森田氏は、カスタマージャーニーとして作られることがある誤った例を示した。

誤ったカスタマージャーニーマップの例

これはジャーニーではなく、AISASなどのフレームワークに基づくユーザーシナリオをカスタマージャーニーマップのフォーマットに置き直しただけだと森田氏は指摘する。

図の例では、ユーザーシナリオとカスタマージャーニーマップのギャップを抽出できず、改善ポイントを探ることもできないため、実のあるKPI設計も効果測定もできないという。

UXには内在プロセスが定義されており、「UX白書」にまとめられていると、森田氏は話を続ける。

UXの内在プロセスの定義
出典:UX白書
http://ift.tt/RzCZxT

ユーザーのステージは、都合よく認知から情報収集に移るわけではなく、利用前の予期的UXが延々と続いたり、一時的に次のステージが移ってから利用前に戻ったりするなど、多くのケースが考えられるという。そのため、前述の誤ったカスタマージャーニーのように簡単にまとめることはできず、内在プロセスがあることを前提にカスタマージャーニーマップを作るべきだと話した。

マーケティングにおけるシナリオの作り方

株式会社SAKUSEN TOKYO
代表取締役
堀 昌之 氏

SAKUSEN TOKYOの堀氏は、「マーケティングシナリオメイク」という視点から自らの事例を紹介し、「カスタマージャーニーを作っているという意識はなく、どちらかというユーザーシナリオを作っている」と述べる。実際にクライアントと仕事をする際には、ペルソナごとのコミュニケーションシナリオをプランニングし、施策をディレクションしているという。

続いて堀氏は、通信販売を中心に展開するヘルスケア商品をケーススタディに、ペルソナの描き方を紹介する。

そのブランドは、マーケティング課題としてテレビCMの予算がないなか、マーケティングのボトルネックを把握し、ターゲットをしっかりと描くことでPDCAを最適化し効果を把握することがあったという。

いくつかのペルソナが作られたが、その1つとして、認知度の低い製品であるため、「大手ヘルスケア商品を長年使っても改善できなかった人」をペルソナとして描いた。そのペルソナは、どのようなコミュニケーションシナリオで製品を購買してくれるのか、クライアントとのワークショップで仮説を立てていったという。

コミュニケーションシナリオは、大きく「悩み期」「認知・興味期」「信頼期」「購入/使用」「リピート期」に分けられ、施策が考えられた。実際のステージは、さらに細かく分類されたが、ペルソナは長年他社製品で悩んでいるユーザーであるため、信頼期が最も重要なステージではないかといったことをクライアントと詰めていったと堀氏は説明する。

各ステージのビジネスゴールや施策、KPIなどを細かく設定して作られたコミュニケーションシナリオは、必ずしも理想的な購買やリピートの流れになるわけではない。しかし、このシナリオをクライアントのマーケティングチームや経営者と共有することで、どこに自分たちの課題があるのか、その課題に対してどのような解決のアプローチがあるのか、これらを見つけるためのツールとして活用できると堀氏は述べる。

コミュニケーションシナリオで組織の壁を越えた意識共有を

なぜコミュニケーションシナリオが必要なのか。堀氏は、クライアントの組織が縦割りの場合が多く、戦略と施策が統合されていないため、これらを統合するために必要だと説く。

また、オンラインからオフラインまで、タッチポイントの多様化によって施策が複雑化するなか、クライアントに統合的な視点で見る人が不足しており、社内の混乱を避けて効率的にするためにもシナリオが必要だという。

シナリオを作ることによって、関係者間の意識の共有を図ることができ、マーケティングコミュニケーションの全体像を見ることができるというのだ。また、KPI設計やPDCAがスムーズになり、ビジネスへの貢献を可視化しやすくなると話す堀氏は、戦略をブレークダウンしたものがコミュニケーションシナリオで、本来はクライアントサイドが持つべき戦略戦術のフレームワークであると説明する。

キリンのデジタルマーケティングとカスタマージャーニー

キリン株式会社
デジタル マーケティング室
主査
上代 晃久 氏

広告主企業として登壇したキリンの上代氏は、ユーザーは「人生」「1年」「春夏秋冬」「月/週/日」などのさまざまなタイミングで、多くのタッチポイントがあり、さまざまな広告や商品、サービス、メディアコンテンツと接していると話す。

たとえば、ユーザーはキリンのビール「一番搾り」のことだけ考えているわけではなく、電車に乗っているときに必ず一番搾りの広告を見るわけでもない。広告やテレビCMを見たからといって、インターネットで一番搾りの情報を検索するとも限らない。上代氏は、「自社都合のカスタマージャーニーを作ると、キリンの情報にしか接していないような状況となり、現実と大きなギャップが生まれる」と説明する。

続けて上代氏は、キリンにおけるデジタルマーケティングの課題として、デジタルの接点(メディア)、発信する顧客体験(コンテンツ)をリアルやデジタル、マス全体で、ブランド価値を届けられているのか考えてきたと話す。

そのなかで上代氏は、「一般論として、デジタルマーケティングに閉じた顧客体験は、クリエイティブやWebページなどのデジタルコンテンツで語られることが多い」が、飲料は、きれいにマーケティングフローで区切れるものではなく、シナリオを考えづらい商品だというのだ。

飲料はマス広告だけでなく、自販機や店舗、工場見学など、非常に多くのタッチポイントがあるため、それらを組み合わせたカスタマージャーニーを作ろうとすると非常に複雑なものになると上代氏は説明する。

現在、こうした課題を解決するため、上代氏はタッチポイントを整理する取り組みを始めているという。飲料のなかでも特にビールのカスタマージャーニーは複雑だが、最近は他社製品のファンがなぜそのビールを飲むようになったのかなども含め、どうすればキリンの製品に振り向いてもらえるかを考え始めているという。

カスタマージャーニーにも向き不向きがある

菅氏は、マーケティングシナリオとカスタマージャーニーには大きな違いがあり、シナリオは連続性を持って理想的に描くことが多いと話す。

一方、人は時間軸に沿って動くわけではなく、ときには戻ることもあると話し、飲料の場合は、特にジャーニーが非常に複雑になるとしたうえで、実際にどうやって施策をポートフォリオに組み込み、KPIをどのように設定しているのかと上代氏に問いかける。

上代氏は、売上を最大化することが最終的なゴールだが、カスタマージャーニーは「初めて製品を手に取って買ってもらうまででいい」との考えを示し、いまは製品を買う前と飲んだ後の体験を分けて、カスタマージャーニーを作ろうとしていると説明する。

森田氏は、飲料のカスタマージャーニーやペルソナの設計が難しい点について、数十のペルソナを作り、部署が分かれているのであれば、部署ごとに各ペルソナを担当してジャーニーを作れば解決できると話す。ただし、これらの制作を外注すると予算がネックになるので、内製を考慮する必要がある。

森田氏は、一般的なコンサルティングでは5~10人ほどのペルソナを作るが、複合して数十のペルソナが必要なのであれば、それらをすべて作って明文化し、合意を形成していくと説明する。それぞれにどのようなカスタマージャーニーとシナリオがあり、どこにギャップがあるのかを見ていけば、各部署の無駄や連携不足が見えてくる。

多数のペルソナを運用するのは難しく、管理役が必要となってくるが、これらの改善点が見えてくるだけでも、やる価値はあると森田氏は話す。また、飲料のカスタマージャーニーが作りづらいのは規模の問題でもあると指摘し、無理にA4用紙1枚にまとめようとせず、必要ならば、何十枚ものカスタマージャーニーを作ればいいと説明した。

プロジェクトオーナーは誰がやるべきか

菅氏は、「誰がイニシアチブを取るのか、プロジェクトの起点がどこにあるのか」といったことも課題ではないかと森田氏に質問する。

森田氏は、カスタマージャーニーは合意を取るための手段として使っているので、種類が増えてくると合意形成が難しくなることはあると話す。そのような場合は、無理にカスタマージャーニーを作らずに、ユーザーシナリオで合意を取り、ユースケースごとにシナリオを検証するようにしているという。

ユースケースとユーザーリサーチを組み合わせ、ユースケースで考えていたシナリオのフレームワークで対応できるのか、個別に検証してシナリオの有用性を計り、仮説の精度を上げてKPIを設定すれば、施策を実施できるという。

堀氏は、カスタマージャーニーよりもユーザーシナリオでクライアントと会話することが多いが、その理由について、多くの組織が施策ごとに分かれていることを挙げる。社内の関係部署が、カスタマージャーニーの考え方で組織されていないと説明し、カスタマージャーニーをクライアント側で扱えないケースもあるのではないかと話す。

一方で、顧客を知るために組織や施策を見直したいと考えている経営者や決定権のある人と話す場合は、カスタマージャーニーが有効であり、クライアントの持っている課題によって使い分ける必要があることを感じるという。

経営層にカスタマージャーニーが有効だという堀氏の意見に同意した森田氏は、シナリオは提供側の理想的なストーリーで、現状のリソースや組織で理想的に効率よくできるかが書かれていると説明する。

しかし、これ以上は効率が良くならないというケースもあり、そのような場合は新たな部署や人材の獲得を提案しなければならない。部署や人材の必要性を説くためにもカスタマージャーニーは有効であり、アプローチや予算に影響されるが、決定権のある人を紹介してもらうきっかけになるという。

上代氏も、キリンのデジタルマーケティング部はデジタルに限った組織ではなく、いまの時代に合ったマーケティングのために組織されたことを明かす。一方、デジタルマーケティングによって、これまで以上に多くのタッチポイントのデータが取得可能になり、マーケティングのクリティカルポイントが見えてくるようにイメージしがちだが、実際はまだそこまで至っていないとも話す。

また、カスタマージャーニーは、マーケティング施策で競合に勝つという視点だけではなく、顧客の経験や体験をより良くするための軸として必要だと上代氏は続ける。数百通りのジャーニーの種類だけ一番搾りを飲む理由があり、デジタルが各ステージの要素を埋める役割を担うことを期待すると上代氏は語り、あと数年のうちにデジタルの力でどこまで実現できるのかが現在のミッションであり、キリングループの課題でもあるとした。

Web広告研究会サイト掲載のオリジナル版はこちら:「そのカスタマージャーニーでいいんですか? UX実践者が教える正しい作り方と使い方」 2016年4月8日開催 第10回東北セミナーレポート 第2部(2016/06/13)

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